南カリフォルニアの山火事・最終章 - fire ecology Part3 -
昨日は、森のfire regimeと、そのサイクルを狂わせた要因の一つ、fire suppressionのことを書きました。山火事を治めようとする努力が、皮肉にも次の火事で燃えるであろうfuelを増やしてしまっている、というお話でした。
さて、南カリフォルニア限定の話に移りましょう。ニュースではもっぱら、高くしげった針葉樹がぼうぼうと燃え盛る映像ばかりが映し出されますが、実際は、この地域の山火事で焼失する面積のほどんどが、chaparral(やぶや茂み)などのshrubland(低木林)であるそうです。
では、他の地域と同じように、ここ南カリフォルニアでの低木林でもfire suppressionが原因で火事がひどくなっているのでしょうか。chaparralは、針葉樹林などに比べて研究データが少ないために、専門家たちの間でも大論争になっているようです。ちなみに、南カリフォルニアの場合は、サンタバーバラ海峡の堆積土を掘って、火事で陸から運ばれてきた灰の層を何千年分とか調べているそうです。大変な労苦です。
研究データが少なく不明な点が多いのですが、一つだけはっきりしていることは、この地域の山火事は、他の地域と違い「Santa Ana」と呼ばれる季節風に大きな影響を受けていることです。この有名なSanta Anaは、秋から始まり、乾燥しきった風を時には時速5ー60マイルで山から吹きおろします。灼熱の夏が終わって、からからに乾いた土地に、からからの風。いかに火事がおこりやすい環境であるかは、想像に難くないと思います。
このSanta Anaのせいで、南カリフォルニアでは、他の地域に比べてfire suppressionがうまくいっていなかったはずである、という主張があります。どんなに防火・消火を心がけても、Santa Anaが吹いてしまえば火事を止めることはできず、したがって火事は今までと同じサイクルで起こってきた、と。そうなると、森に残るfuelの量もそんなに膨大になっているはずはありません。ちゃんと予定通り定期的に燃えてきたのですから。
ではなぜ、2003年の火事は近代史最悪の被害となったのでしょう。また、もしこの地域のfire regimeが以前と変わっていないとすれば、なぜこんなに「火事の被害が拡大している」印象を受けるのでしょう。
大きな要素の一つは、「人が森に近づきすぎた」ということです。カリフォルニアの人口は、約100年ぐらいで30倍にも増え、多くの宅地が、火事の危険が大きい生態系に隣接しています。なので、山火事から人間への距離は確実に縮まっています。さらに、人間が起こす山火事が増えます。そのうえ、火事のすぐそばに宅地があると、消火活動が困難になり、時間がかかることにもなります。
もう一つは、通常であれば効果を発揮するはずの、「若い木」バッファーがここでは機能しない、ということです。年寄りの木に比べて、若い木は燃えにくいので、計画的に若い木のゾーンを散らして配置することによって、延焼を拡大するのを止めることができると考えられていました。ところが、最近の南カリフォルニアの火事では、若い木もことごとく燃えてしまうそうです。それぐらい最近の山火事は火の勢いが激しいということです。
Chaparralの低木林は、自然の森と造成地(宅地など)のinterface(中間)に位置しています。そして、火事からの立ち直りが早いそうです。なので、火事がおこった後も、「しばらくは火事にならないだろう」と安穏としてはおられないということです。しかも、住宅地に隣接するChaparralの90%以上は、現在あおあおと茂っている状態なので、いつ火事が起こるかもしれません。「人間社会へのダメージ・リスク」は間違いなく増えているといえます。
さらに、温暖化の特徴である、春先の降雨量が増える(植物がより成長する→fuelが増える)、気温が高くなる、旱魃が増える(火事が起こりやすくなる)といった気候条件の変化も、火事が頻繁になったり、大規模になったりする要因になるかもしれません。気候の変化は、Santa Anaの質(発生時期、大きさ、速さなど)にも影響を与えるでしょう。
すごく長くなってしまいました。無理やりまとめます。
① 南カリフォルニアの山火事が、これまでのfire regimeのサイクルを逸脱しているかどうかはわからない。
② にもかかわらず、少なくとも「人間社会に与えるダメージ」は明らかに増大している。
③ 今後も山火事は常につきまとう問題である。そのリスクが減ることはない。
これをふまえてどうするべきか。素人の私には何も言えません。たくさんの専門家が、効果的なfire managementについて研究していらっしゃいます。ただ、素人として一つだけ言いたいのは、「山火事のリスクの高い地域に、これ以上宅地を造成しないで欲しい」ということです。開発許可をおろすとき、洪水や浸水が起こりやすい土地かどうかは、100 year flood eventsといってちゃんとチェックするようになっているのに、なぜ山火事ではしないのでしょう。必ずそこにある危機なのに。みんなが住みたい南カリフォルニア、もっともっと開発したいのはわかります。でも、山火事のリスクはあまりにもあまりにも、大きすぎます。
photo source: http://interwork.sdsu.edu/fire/resources/images/493_Rancho_Pen_Fire_canyon_II.jpg
http://nature.berkeley.edu/moritzlab/docs/Keeley_etal_2004.pdf
さて、南カリフォルニア限定の話に移りましょう。ニュースではもっぱら、高くしげった針葉樹がぼうぼうと燃え盛る映像ばかりが映し出されますが、実際は、この地域の山火事で焼失する面積のほどんどが、chaparral(やぶや茂み)などのshrubland(低木林)であるそうです。
では、他の地域と同じように、ここ南カリフォルニアでの低木林でもfire suppressionが原因で火事がひどくなっているのでしょうか。chaparralは、針葉樹林などに比べて研究データが少ないために、専門家たちの間でも大論争になっているようです。ちなみに、南カリフォルニアの場合は、サンタバーバラ海峡の堆積土を掘って、火事で陸から運ばれてきた灰の層を何千年分とか調べているそうです。大変な労苦です。
研究データが少なく不明な点が多いのですが、一つだけはっきりしていることは、この地域の山火事は、他の地域と違い「Santa Ana」と呼ばれる季節風に大きな影響を受けていることです。この有名なSanta Anaは、秋から始まり、乾燥しきった風を時には時速5ー60マイルで山から吹きおろします。灼熱の夏が終わって、からからに乾いた土地に、からからの風。いかに火事がおこりやすい環境であるかは、想像に難くないと思います。
このSanta Anaのせいで、南カリフォルニアでは、他の地域に比べてfire suppressionがうまくいっていなかったはずである、という主張があります。どんなに防火・消火を心がけても、Santa Anaが吹いてしまえば火事を止めることはできず、したがって火事は今までと同じサイクルで起こってきた、と。そうなると、森に残るfuelの量もそんなに膨大になっているはずはありません。ちゃんと予定通り定期的に燃えてきたのですから。
ではなぜ、2003年の火事は近代史最悪の被害となったのでしょう。また、もしこの地域のfire regimeが以前と変わっていないとすれば、なぜこんなに「火事の被害が拡大している」印象を受けるのでしょう。
大きな要素の一つは、「人が森に近づきすぎた」ということです。カリフォルニアの人口は、約100年ぐらいで30倍にも増え、多くの宅地が、火事の危険が大きい生態系に隣接しています。なので、山火事から人間への距離は確実に縮まっています。さらに、人間が起こす山火事が増えます。そのうえ、火事のすぐそばに宅地があると、消火活動が困難になり、時間がかかることにもなります。
もう一つは、通常であれば効果を発揮するはずの、「若い木」バッファーがここでは機能しない、ということです。年寄りの木に比べて、若い木は燃えにくいので、計画的に若い木のゾーンを散らして配置することによって、延焼を拡大するのを止めることができると考えられていました。ところが、最近の南カリフォルニアの火事では、若い木もことごとく燃えてしまうそうです。それぐらい最近の山火事は火の勢いが激しいということです。
Chaparralの低木林は、自然の森と造成地(宅地など)のinterface(中間)に位置しています。そして、火事からの立ち直りが早いそうです。なので、火事がおこった後も、「しばらくは火事にならないだろう」と安穏としてはおられないということです。しかも、住宅地に隣接するChaparralの90%以上は、現在あおあおと茂っている状態なので、いつ火事が起こるかもしれません。「人間社会へのダメージ・リスク」は間違いなく増えているといえます。
さらに、温暖化の特徴である、春先の降雨量が増える(植物がより成長する→fuelが増える)、気温が高くなる、旱魃が増える(火事が起こりやすくなる)といった気候条件の変化も、火事が頻繁になったり、大規模になったりする要因になるかもしれません。気候の変化は、Santa Anaの質(発生時期、大きさ、速さなど)にも影響を与えるでしょう。
すごく長くなってしまいました。無理やりまとめます。
① 南カリフォルニアの山火事が、これまでのfire regimeのサイクルを逸脱しているかどうかはわからない。
② にもかかわらず、少なくとも「人間社会に与えるダメージ」は明らかに増大している。
③ 今後も山火事は常につきまとう問題である。そのリスクが減ることはない。
これをふまえてどうするべきか。素人の私には何も言えません。たくさんの専門家が、効果的なfire managementについて研究していらっしゃいます。ただ、素人として一つだけ言いたいのは、「山火事のリスクの高い地域に、これ以上宅地を造成しないで欲しい」ということです。開発許可をおろすとき、洪水や浸水が起こりやすい土地かどうかは、100 year flood eventsといってちゃんとチェックするようになっているのに、なぜ山火事ではしないのでしょう。必ずそこにある危機なのに。みんなが住みたい南カリフォルニア、もっともっと開発したいのはわかります。でも、山火事のリスクはあまりにもあまりにも、大きすぎます。
photo source: http://interwork.sdsu.edu/fire/resources/images/493_Rancho_Pen_Fire_canyon_II.jpg
http://nature.berkeley.edu/moritzlab/docs/Keeley_etal_2004.pdf
by kinky25
| 2007-10-28 13:38
| カンキョウの話。
筆者: 環境庁勤務・一児の母。 生息地: カリフォルニア・サクラメント。 ブログについて: サイエンスとトレンドを融合した、わかりやすいエコ・温暖化・サステナビリティ。コメント歓迎です(除く営業)
by kinky25
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